Bumper Book


 ホームページをながく更新できませんでした。 更新方法を忘れないために、このページをつくります。といっても、タネがない。そういうときは、私の場合は、ヒコーキものになってしまいます。

 前回、ご紹介したCharity Shopの1つであるOxfamに立ち寄ったところ、Aeroplane Bumper Book というタイトルの、B5サイズの大型で、5cm以上の厚さのある子供向け本を発見しました。上の左(図1)が、その表紙です。隅が傷んでいますが、中は案外ときれいでした。内容は、飛行機関連の短い話が易しい英語で書かれています。カラーの挿絵が4枚ついています。その1つは、上の右(図2)です。明らかに、第二次世界大戦の前の本ですが、「奥付け」にあたるものがなく(子供向けの英語の本には、無いものが時々ある)、発行年はよくわかりません。3.49ポンド(700円弱)だったので、購入しました。

 Bumper Bookの意味を知らなかったので、辞書を見ると、「1925年ころから大量に廉価で出回った英国の子供の本の呼称」(研究社リーダーズ・プラス)とのことです。たしかに、そのとおりの本です。では、出版年はいつなのか。これを探索してみたくなりました。

 第一の手がかりは、上の右の挿絵です。絵の説明は「巨大な(英仏)海峡越え旅客機」です。この説明のとおりで、私程度のマニアであれば、調べなくても、これがArmstrong Whitworth社製のArgosies旅客機で、イギリスと大陸ヨーロッパを結ぶ路線にとんでいたことくらいはわかります。でも、正確にはいつからとんでいるのか。手許にある古書店でかった本を、ちょっと調べてみました。すぐわかりました。1926年から飛んでいます。写真があったので、下の左(図3)と下の右(図4))として、掲げておきます。


 図2と図4を比べると、登録記号G-EBLFが同じであることがわかります。図4の解説から、G-EBLFが第1号機だったことがわかります。図2は正確な登録記号だったのです。とすると、この本の出版年は、1926年以降だと考えてよさそうです。

 ところで、Argosies旅客機の簡単な性能表を掲げておきましょう。420馬力エンジン3機、乗員2名乗客28名、全幅約27m全長約20m、最大速度時速176km、速度時速145kmで航続距離648km。ロンドンとヨーロッパ都市を結ぶ豪華旅客機として有名でした。もっとも、航続距離からして、ロンドンーパリくらいが実用的なところです。

 このころ(1920年代後半)、現在までつづく旅客機の基本的なサービスがはじまりました。客室乗務員(看護婦資格のある女性をのせるのを売りにした会社もあった)が機内食や飲み物をサービスし、機内映画(!)もはじまりました。そのとき、参考にしたのは、豪華客船のサービスでした。そのため、旅客機に関する呼称は、多くは客船のものが使われ、現在までつづいています。極めつけは、旅客機の機体のことをship(船)と呼ぶことでしょうか。portside(左舷)starboard(右舷)もそうです。そうそう、もっと簡単な例がありました。旅客機の機長の制服は、客船の船長の制服とそっくりだということを気がつかれているでしょうか。

 図3と図4は、よく似ていますが、角度が微妙に違います。この写真は以前にもべつのところでみたことがあります。おそらく、同じときにとられた写真で、当時の有名となった宣伝用写真ではないかと思います。機首の上で、パイロットが「野ざらし」状態で操縦しています。速度が遅いとはいえ、パイロットもなかなか大変でした。

 出版年の第二の手がかりは、本文中に、登録記号の解説文があることです。G-E***はイギリスであり、G-AU**はオーストラリア、G-C***はカナダ、G-I***はインド、というように解説しています。ところが、実際のところは、この仕組みは1928年までで、その後は変更されました(こんなことを知っているなんて、私もマニアだと思う)。その後は、Gはイギリスのまま現在にいたりますが、他は別の記号を使うことになりました。たとえば、オーストラリアはVH-****というように。ということは、この本は、1928年以前に執筆されていることがわかります。

 というわけで、出版年としては、1926-28年のあたりが濃厚、といってよいのではないかと思いました。